学校連携とうきょうの木 学び場プロジェクト
Photos by Takuya Suzuki
“とうきょうの木”を使って制作した学生の作品を
リビングデザインセンターOZONE6階とTOKYO MOKUNAVIで発表展示
2024年度は、文化学園大学造形学部建築・インテリア学科との学校連携「東京の木“多摩産材”を知る・触れる・広げるプロジェクト」を半年間にわたって取り組んできました。 最終回となる3回目のレポートでは、“とうきょうの木”を使って制作した学生たちの作品を東京・新宿のリビングデザインセンターOZONEで展示発表した様子をご紹介します。
このプロジェクトのキーワードは、“とうきょうの木”を「知る・触れる・広げる」。今回は「広げる」に焦点を当て、学生の作品を通じて広く一般の方々に“とうきょうの木”について知ってもらう機会をつくりました。リビングデザインセンターOZONE6階のパークスクエアと7階のTOKYO MOKUNAVIの2つの会場には、学生の作品の中から厳選した計18点が並びました。同大学造形学部建築・インテリア学科教授の丸茂みゆき先生と学生に、これまでのプロジェクトを振り返った感想も伺いました。
リビングデザインセンターOZONE 6階パークスクエア
「東京の木“多摩産材”を
知る・触れる・広げるプロジェクト」
完成作品展示
会場:リビングデザインセンターOZONE
6階 パークスクエア 7 階 TOKYO MOKUNAVI
会期:2024年10月17日(木)〜10月29日(火)
展示作品数:実物制作17点、パネル展示1点
TOKYO MOKUNAVIでの作品展示風景。
リビングデザインセンターOZONEパークスクエアでの
作品展示風景
Photos by Toshiyuki Kojima(枠内)
作品のコンセプトや、プロジェクトの体験を通して“とうきょうの木”について
感じた思いや考えを学生のみなさんに聞きました。
経年変化を楽しみながら、永く使い続けられる家具
「共育」(ベビーベッドに変化するマタニティチェア)
谷井愛美花さん 煙上 麗さん
実際の完成イメージの1/2サイズで制作した椅子「共育」。
谷井さん(左) 煙上さん
谷井さんと煙上さんは、最初にTOKYO MOKUNAVIに行って、展示作品を参考に何をつくるか2人で相談したそうです。そこで座面の中央に穴が空いているスツールを見て、産後の女性をケアするための椅子を想起し、木の温かみや肌触りの良さを生かしたお母さんと赤ちゃんのための家具をつくろうと考えました。
素材には軽量で柔らかく、汗を吸収する“とうきょうの木”のスギを選びました。花をモチーフに穴を開けた板を座面の上に敷くと、妊婦や産後の女性のための椅子になり、その板を前面に差し込むと赤ちゃんのベッドになります。その家具は木の経年変化を楽しみながら、親子で永く使い続けられることから、「共育」とネーミングしました。
プロジェクトでの体験について、それぞれ感想を語りました。「原木市場や製材所の見学でお話を聞いて、“とうきょうの木”はこんなにも手をかけて生産されていることを知って驚きました。下草刈りや枝打ち、つる切りのほかにも、間伐して地面に陽が当たるようにするなど、木を生産するためにはさまざまな工程が必要だと知ることができて貴重な体験でした」(煙上さん)。「山の木は戦後に植えられたものが多く、花粉症にも関係するなど、これまで知らなかったことを教えていただいたり、自分たちの手で家具をつくる実体験を通して、“とうきょうの木”について深く考えることができて得るものが多かったです」(谷井さん)。
癒しと温もりを与えるライトとキャンドルウォーマー
「癒温(yuon)」
吉原穂乃佳さん 小林南津子さん
TOKYO MOKUNAVIの会場では、実際にキャンドルを置いて点灯して展示した。
吉原さん(左) 小林さん
吉原さんと小林さんは、“とうきょうの木”を使って、癒しと温もりを与えるライトとキャンドルウォーマーを制作しました。電気を消してキャンドルの灯りで過ごすキャンドルナイトのイベントが多摩エリアでも開催されていると知ったことが着想のきっかけとなったそうです。
放たれる光が自然に見えるように格子の間隔をランダムに配置したり、右のライトには“とうきょうの木”でつくられた和紙を貼ったり、波型のラインを取り入れて2つの作品につながりをもたせたデザインにするなど、細かい部分にも工夫を凝らしました。住宅のリビングや寝室、ホテルやバーなど、和洋どちらの空間にも合いそうです。
プロジェクトのなかでは、自分の手を使った制作体験が面白かったと振り返ります。「これまでの授業ではパソコンのCGでつくることが多かったので、頭のなかで考えるだけでなく、実際に自分の手を使ってものづくりをすることでいろいろなことを学びました。この作品はきれいな正方形なので、少しでも寸法が狂うと上手く合わせられなくなるなど、最後まで格闘しましたが完成できて嬉しいです」(吉原さん)。「原木市場で話をお聞きしたなかで、木を伐ることは環境破壊ではなく、森林の循環につながると知って価値観が変わりました。私も自分の手でつくる難しさを感じましたが、日によって湿気で曲がってしまうなど、木の特性を知ることもできて興味深い体験でした」(小林さん)。
人の成長とともに時を重ねる楽しさを味わうモビール
「WOOD Charmy Memory」
三浦百恵さん 本多舞香さん
パークスクエアでの会場では、モビールを吊るして展示。
三浦さん(左) 本多さん
額に入れたサンプルやモビールをつくれるキットも制作した。
三浦さんと本多さんは、“とうきょうの木”を多くの人に使ってもらいたい、届けたいという思いから「GIFT」をテーマに制作しました。動物や果物、クルマ、数字などをモチーフにした小さなピースを電動工具でカットして、手作業で丁寧にヤスリをかけて仕上げています。
誕生日や記念日に大切な人に毎年ひとつずつ贈って増えていけば、モビールや額に入れてインテリアとして飾ったり、チャームとして身に付けるなど、多彩なアレンジが可能です。この作品は、人から贈られたときの嬉しい気持ちが思い出となって生き続けるだけでなく、木は経年変化によって色味が濃くなっていくので、人の成長とともに時を重ねていく楽しさを味わうこともできます。
リビングデザインセンターOZONEの作品展示に選ばれたいという思いから、頑張って制作したという2人。卒業後は、アーティストとして活動したいと考えているそうです。「これまで作品をつくるときに形を変えやすい布や樹脂、粘土を使うことが多かったのですが、木も複雑な形状や小さなものもこんなに加工しやすいんだと知って驚きました。この経験から、また木を使って作品をつくってみたいと思っています」(本多さん)。「見学した製材所でカットされた木が私たちの手元に材料として届いたときにとても感動しました。さらにそれを自分たちの作品づくりに生かすという体験を通して、 “とうきょうの木”に対する理解と作品への愛着が深まりました」(三浦さん)。
3人それぞれの個性を生かしたウォールハンガー
「RHYTHM」
田島恭花さん 比嘉純圭さん 髙橋聖来さん
フックを前傾させた単体と、2つを連結させて展示した。
(左から)田島さん 比嘉さん 髙橋さん
田島さん、比嘉さん、髙橋さんは、3人の個性が生きるものをつくろうと考えました。いろいろ話し合ったなかから、各々つくったものを単体でも連結させても使えるウォールハンガーが完成しました。“とうきょうの木”のスギとヒノキを交互に使用して、細いスギが前傾してフックの機能をはたし、コートやバッグなどをかけることができます。その棒状の板はそれぞれ好きな長さに、あえてバラバラにして3人の個性を出しました。それがピアノの鍵盤のように見えて、音楽が聴こえてくるように思えたことから、作品名を「RHYTHM(リズム)」と名付けました。
プロジェクトの感想をこう語ります。「前傾するスギのフックは、ストッパーの機能をもたせるために根本の部分を斜めにカットしています。ちょうどいい角度になるまで何度も調整して大変でしたが、みんなで頑張って完成させることができて嬉しいです」(髙橋さん)。「多摩の製材所を見学したときに、製材するときに出るおがくずを家畜の敷き藁に利用するなど、廃棄物をできるだけ出さないようにしているというお話を聞いて、環境のこともきちんと考えられていることに感動しました」(田島さん)。「木を使うことで、花粉症対策にもつながるとは想像もしていませんでした。戦後、日本の山に大量にスギが植林されたと聞きましたが、それをどんどん活用していけばいいんだという発想に気づけたり、学びの多いプロジェクトでした」(比嘉さん)。
木の音色に耳を傾けながら捨てる
キャップ用ダストボックス
「木々の声」
佐藤結女さん
自動販売機の横に置くなど、街の中での活用を考えた。
佐藤さん
キャップも置いて、来場者が体感できるようにした。
佐藤さんは、“とうきょうの木”を使って東京で使うものをつくりたいと思い、東京の街はゴミが多いことからダストボックスを考えました。さらに、ただ捨てるよりも、音が出たらゴミ捨ても楽しくなるだろうと考えて、ペットボトルのキャップを入れる分別ダストボックスを制作しました。
上部の穴にキャップを入れると、コンコンコンと軽やかな音を立てて下に落ちていきます。この作品は、木目の美しさや温かな質感だけでなく、癒しを与えてくれる心地よい音色という木のもうひとつの魅力を教えてくれます。外観はシンプルですが、内部は階段状になっていて複雑な仕組みに。仕掛け装置や子どもの遊具、木琴などを参考に試行錯誤を重ねて設計したそうです。内部構造をさらに工夫すれば、「キャップが落ちるときに音階を奏でることもできそう」と佐藤さんは考えています。
プロジェクトの体験では、製材所での見学が印象に残ったと言います。「東京にもこんなに緑があるということに驚きました。原木市場に大きな丸太がきちんとサイズ別に分けられて並んでいる光景や、製材所でそれらがカットされていく様子が印象的でした。これまで知らなかった、こういう世界があるんだと思い、興味深かったです。作品制作では、実際に自分の手で木に触れて、木目の美しさや温もりを体感できたことも良かったです。私はこれから建築関係の仕事に就く予定なので、ここで得た知識や体験を生かしていけたらと考えています」。
2024年度の
「東京の木“多摩産材”を知る・触れる・広げる
プロジェクト」を振り返って
文化学園大学造形学部建築・インテリア学科教授の丸茂みゆき先生は、「東京の木“多摩産材”を知る・触れる・広げるプロジェクト」を15年間継続して取り組んでこられました。そんな丸茂先生に2024年度のプロジェクトを振り返った感想と、卒業していく学生へのメッセージをいただきました。
「今回のリビングデザインセンターOZONEでの作品展示発表と、3回にわたって取材いただいたレポートのウェブサイトでの発信によって、プロジェクトの3つ目のキーワード『広げる』という目標が十分に達成できたのではないかと思っています。半年間にわたって連携プロジェクトとして皆さんからのサポートをいただいて、学生たちにとっても大きな励みになったと思います。今回参加した学生は、ちょうどコロナ禍の2021年に入学したので、最初は大学に来ることもままならない状況がありました。ですから、このプロジェクトで原木市場などの見学や実際に自分の手を使った制作体験は、例年よりも身体感覚や感性に響く人が多かったのではないかと思います。こうした体験はそれぞれの手に、心にずっと残っていくものです。そして、この学びや体験は、卒業後に建築やインテリア業界に進む人にとっては、お客様に“とうきょうの木”を提案するときに説得力が出ると思いますし、別の仕事に就く人にとっても生きていくうえで大きな力になると思います。大学では今後もこの活動を続けていく予定です。 “とうきょうの木”について、さらに多くの人に広めていけるように取り組んでいきたいと考えています」。
丸茂みゆき先生
最後に
MOKUNAVIでは、“とうきょうの木”を使った学校連携プロジェクトを今後も展開していく予定です。若い世代がこのプロジェクトを通して“とうきょうの木”について深く学び知るためのサポートを行い、彼らの未来を応援したいと考えています。今回のプロジェクトの取材を通して、多くの学生が「楽しかった」「学びになった」「また木で何かつくってみたい」と笑顔で語っていたのが印象的でした。今後、みなさんが社会に出て“とうきょうの木”を多彩な場所や用途で活用していかれることを楽しみにしています。