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学校連携とうきょうの木 学び場プロジェクト

Report
学校連携プロジェクト01のメインビジュアル

Photos by Takuya Suzuki

とうきょうの木 学び場プロジェクト

第2回目は、文化学園大学 造形学部 建築・インテリア学科の学生さんたちの作品の制作・発表・講評会の取材レポートをお伝えします。

〈作品制作〉

5月までの多摩エリア見学や木材加工体験のあと、
6月初旬から7月初旬にかけて、学生たちは“とうきょうの木”を使った作品制作に取り組みました。
1〜3人のグループに分かれて、3つの制作室で行いました。

6月初旬

木材の特性を考えて選ぶ

事前にプロジェクトに申請のあった“とうきょうの木”のヒノキとスギを学校にお渡しし、学生たちはその中から作品に適した木材を選びました。ヒノキはより香りや堅牢性が高く、スギは軽量で木目が強く出るというように、特性が異なります。最初に各々が描いた図面をもとに電動工具で板材をカットします。

6月中旬 〜 下旬

共同作業で協力して解決していく

カットした板材を組み立て、ダボなどの木質部材で接合します。実際の木材を使って制作するなかで、スケッチや図面に描いたようにうまくできないことも出てきます。当初は先生に質問をする人が多かったものの、次第に学生同士で話し合い、自分たちで解決する姿が見られるようになりました。

6月下旬 〜 7月初旬

最終仕上げと、講評会に向けた準備

作品制作の仕上げに取りかかります。その作業が終了した学生は、講評会で発表するコンセプトボードの作成に移ります。作品のコンセプトや使われる場所の想定などを文章にまとめて、校内や屋外で撮影した作品写真やCGを駆使してデザイン構成を考えながらパソコンで制作しました。

制作中の様子

班に分かれて作品制作を行う。

班に分かれて作品制作を行う。

2人で協力してダボを入れる穴をドリルで開ける。

2人で協力してダボを入れる穴を
ドリルで開ける。

完成に向けて、細部の最終確認をする。

完成に向けて、
細部の最終確認をする。

図面をもとに、2人で制作方法を考える。

図面をもとに、
2人で制作方法を考える。

CGを駆使して、コンセプトボードを作成する。

CGを駆使して、
コンセプトボードを作成する。

丸茂先生にアドバイスを受けて解決策を探る。

丸茂先生にアドバイスを受けて
解決策を探る。

学生たちの制作を見守るなかで、丸茂みゆき先生はこう話します。「自分たちの作品づくりに熱中するばかりではなく、周りを見ること、ほかの人はどういうことを考えているのかなと視野を広げること。作業工程のなかには自分が苦手だなと思うことも出てくると思うのですが、それを避けずに向き合って挑戦するのも大事なことです」。

〈作品の講評会〉

7月10日は、学生が3教室に分かれて全員が発表して先生による講評が行われました。
授業最終日の13 日には、3教室から選抜された 13 組が作品を発表、MOKUNAVI から東京都農林水産振興財団 森の事業課長 石城 護と、
グラフィックデザイナーの小島利之が作品に対するアドバイスや感想を述べました。
またこの日は「オープンキャンパス」の一環として行われた公開授業でもあり、
訪れた高校生や保護者にも“とうきょうの木”についてプレゼンテーションする場になりました。
発表した13組の中から、カリキュラムにおける「“とうきょうの木”を多摩エリアで活用する」
というテーマに対する提案が明快な、3組の作品をご紹介します。

ヒノキの香りが癒しの効果を高める

「私だけのお風呂時間」

萩原 凜さん 井筒歩生さん 中島未絵さん

萩原さん、井筒さん、中島さんは、東京都あきる野市の“とうきょうの木”を使用した「秋川渓谷 瀬音の湯」の見学体験から着想を得て、温泉に自分の好きなシャンプーなどを持ち込めるスパバッグと、温泉内に設置するケースを制作しました。スパバッグは、逆さまにしてイスとしても使用できるように堅牢なヒノキを採用しています。水の流れをイメージした波型のデザインと、ヒノキの香りが癒しの効果を促し、温泉で過ごす時間の楽しみを広げる作品です。

石城

「自分が子どもの頃、温泉では木製の桶やイスが
使われていたので懐かしさも感じました」

小島

「個々に自分専用のスパバッグが実現したら、
より使う人に愛着を抱かせることができそうですね」

シャンプーなどをスパバッグ(右)からケース(左)に移し替えて使う。

シャンプーなどをスパバッグ(右)からケース(左)に
移し替えて使う。

(左から)萩原さん、井筒さん、中島さん

(左から)萩原さん、井筒さん、中島さん

楽しさや親しみやすさを盛り込んだ

「アソビゴコロ」

渡辺真帆さん 山口あやねさん

渡辺さんと山口さんは、“とうきょうの木”と多摩動物公園の動物の魅力を一緒にPRすることを考えて、トイレットペーパーホルダーを制作しました。多摩動物公園駅に設置することを想定し、香りが高く、消臭効果のあるヒノキを使用しました。子どもも大勢訪れることから、ペーパーの上で車輪をコロコロと回すオブジェをつくり、遊び心を取り入れています。2人が一番大切に考えたのがその部分で、ゴールデンターキンとゾウをモチーフに試行錯誤を重ねて完成させました。

石城

「車輪の部分を丸ではなく八角形などにすると、
ストッパー機能ももたせられそうですね」

小島

「“とうきょうの木”と動物と遊び心を結んで魅力を
PRするという、明快なコンセプトに感銘を受けました」

ペーパーが減ると車輪が下がる構造も木で制作した。

ペーパーが減ると車輪が下がる構造も木で制作した。

作品の説明をする渡辺さん(左)、山口さん

作品の説明をする渡辺さん(左)、山口さん

多摩の自然物を集めて飾って楽しむ

「子供の夢ボックス」

林 花さん 堀内美桜さん

林さんと堀内さんは、バーベキューやキャンプが盛んで自然豊かな多摩エリアで使うことを想定した、子どものフィールドワーク用ボックス(バッグ)を制作しました。持ち運びしやすいように軽量なスギを選び、調節可能なバンドを付けて肩から下げたり、短くして手で持つこともできます。中には引き出しやペン立て、ペーパーホルダーがあり、落ち葉や小枝、どんぐりなどを入れて、家に持ち帰ってインテリアとして飾って眺める楽しみも味わえます。

石城

「質の高い蝶番を使うとさらに魅力的になりそうですね」

小島

「板目と柾(まさ)目という、切り方によって異なる木材の
模様をデザインに取り入れるという着眼点がいいですね」

引き出しは、板材の模様を変えて制作した。

引き出しは、板材の模様を変えて制作した。

プレゼンする林さん(左)、堀内さん

プレゼンする林さん(左)、堀内さん

Interview

「東京の木“多摩産材”を知る・触れる・広げるプロジェクト」の
ここまでのカリキュラムを振り返って、学生のみなさんに感想を聞きました。

Interview

学んだ体験や知識を生かして伝えていきたい

横野璃音さん、宇治望香さん、打越璃奈さん

カリキュラムの体験について、横野さん、宇治さん、打越さんはそれぞれ感想を語ります。「今までヒノキやスギといった木の種類くらいしか知りませんでしたが、“とうきょうの木”というように各地にブランドの木があることを初めて知りました」(横野さん)、「制作体験が楽しく、木がますます好きになりました。これから家具メーカーで働くのですが、“とうきょうの木”をお客様に提案したり、学んだ体験や知識を生かしていけたらと考えています」(宇治さん)、「このカリキュラムの体験をもとに、東京にも豊かな自然があることや、木が身近にあることの心地良さを人に伝えていきたいと思いました」(打越さん)。

横野さん、(左)と宇治さん

横野さん、(左)と宇治さん

大の音楽好きという3人は、スマートフォン用スピーカー「woodecho」を制作しました。音楽を通じて、“とうきょうの木”を日々の生活のなかで身近に感じて楽しんでほしいという思いが込められています。音の広がりや反響を考えて穴を開けた5枚の板を重ねて接着し、最後にやすりで曲線の形を整えたという力作です。

ステージに並べてインテリアとしても楽しめる。

ステージに並べてインテリアとしても楽しめる。

Interview

木の産地や特性を知る体験を経て

歩 易凡さん

歩さんは、インテリアや家具が好きで、それに携わる仕事に就きたいと考えています。このカリキュラムでは、特に多摩エリアの製材所にあった道具類や加工技術、木の水分を減らすために機械で乾燥する工程などに興味を抱いたそうです。「初めて家具を制作して、とても楽しかったです。ダボなどの接合方法を知ることもできて、自分がつくりたいと思う家具の表現の幅が広がりました。木にもそれぞれの産地のものがあるということを知って、各々の木の特性を生かした家具をまたつくってみたいと思っています」。

歩さん

歩さん

歩さんの「Modest Desk」は、持ち運びしやすいように軽量なスギを使用しています。左右の脚の幅を変えたり、奥に隙間をつくったり、アクセントカラーを入れるなど、デザイン性を追求しました。ソファの横に置くサイドテーブルや子ども用机など、多様な用途で使える家具をめざしました。

2枚のスギの板材を接合し、大きな面をつくり構成した。

2枚のスギの板材を接合し、大きな面をつくり構成した。

Interview

継承して普及して、未来につなげていきたい

関 希依さん 並木栞奈さん

自然あふれる東京近郊の県で育った関さんと並木さんは、今回、初めて林業従事者の話を聞いて驚いたそうです。「木を伐るのは環境破壊につながるのでよくないことと教わってきたのですが、実はもっと伐って使ってほしいという現地の方の生の声を聞いて価値観が大きく変わり、とてもいい経験になりました」(関さん)。「国産の木は高価なイメージがあって、使うのはもったいないのかなと思っていたのですが、積極的に使う方が林業従事者の方にも山にもいいことがわかって勉強になりました」(並木さん)。

関さん(左)、並木さん

関さん(左)、並木さん

2人が制作したのは、幅広い年齢層の人が多様な施設で使用することを想定した「モクっとタイル」です。パズルのように組み合わせると、木目が永遠に続いていくような面白さがあります。そこには “とうきょうの木”の魅力を継承して普及し、未来につなげていきたいという思いが根ざしています。

木目を強く出すためにオイル仕上げを施し、足ツボ付きも制作。

木目を強く出すためにオイル仕上げを施し、足ツボ付きも制作。

Interview

実際に見て聞くリアルな体験の大切さを実感

小山輝流さん

小山さんは、実際に原木市場などに訪れ、話を聞く体験ができて良かったといいます。「東京は、自然とは無縁というイメージがあったのですが、多摩エリアの原木市場のある場所には豊かな自然が広がっていて驚きました。木を伐採するのは自然破壊につながると非難する意見をネットでよく見かけていたのですが、そこではきちんと管理されたシステムのもと木を伐っていることや、その木を使うという消費が追いついていない状況があり、それを知ることができて貴重な経験になりました」。

小山さんが制作したのは、雨の日も楽しい気分になるような傘立て「雨上がりの香」です。香りがよく、調湿効果のあるヒノキを採用しました。使ったあとの傘の乾燥を促すために、細かい板材を組み合わせてスリットを設けて「風の通り道」をつくりました。旅館などでの使用も想定しています。

傘の先端が下につかないように、天地を高くとっている。

傘の先端が下につかないように、天地を高くとっている。

Interview

持続可能な社会に向けた提案を考える

野村桃江さん 大谷 凜さん

多摩地域で育った野村さんと、昔から温かみのある木を使った家具が好きだったという大谷さんは、設計の仕事に就く予定です。「林業従事者の方のお話から情熱も伝わってきて、より木を大切にしたいと思うようになりました。これから温かみのある木質のものを積極的に生かした設計を考えていきたいと思います」(野村さん)、「いろいろなことを学ぶなかで、今後、どのようにこうした国産材を使っていくか、環境や社会のことまでしっかり考えながら関わっていきたいという思いになりました」(大谷さん)。

野村さん(左)、大谷さん

野村さん(左)、大谷さん

2人はコスメブランド「MooKUME」を考えました。アイシャドウパレットを、手触りの良さや香りのリラックス効果を考えてヒノキで制作しました。ショップ空間は“とうきょうの木”をふんだんに使用し、カードやパッケージは端材や再生素材の活用を想定して、持続可能な社会に向けた提案をしました。

プロダクトから空間、ロゴやバッグのデザインも考えた。

プロダクトから空間、ロゴやバッグのデザインも考えた。

作品の講評会を終えて

学生さんたちの作品発表の終了後、MOKUNAVIの石城 護とグラフィックデザイナーの小島利之、文化学園大学 造形学部 建築・インテリア学科 教授の丸茂みゆき先生からお話をいただきました。

石城 護

石城 護

「どれも工夫が凝らされた作品で、とても興味深かったです。みなさんのなかには、これから建築やインテリアの道に進む人も多いと思います。今回は“とうきょうの木”を使って作品を制作いただきましたが、各地にはそれぞれ産地の木があります。その地域にはどんな木があるのか、地域の木を使うことでどういう意味があるのか、想像を巡らせながら今後、意識して木材を使っていただけるといいかなと思っています」。

石城 護

小島利之

小島利之

「みなさんが毎回、一生懸命取り組んでいる姿を見てきたので、完成に至った喜びを私もかみしめています。今回、自分たちが好きなものを題材にした人が多く見受けられましたが、好きなものを形にしていくのは、デザインをするうえでは実は苦行に近く、とても難しいことなのです。そういうなかでみなさんが細かい部分まで丁寧につくる様子を見て、作品や“とうきょうの木”に対する深い愛情を感じました」。

小島利之

丸茂みゆき先生

丸茂みゆき先生

「今回のカリキュラムでは、木材を使って作品を制作したのは初めてという人も多かったと思います。あまりうまくできなかった、木材への興味は大きくならなかったなどの感想も、もしかしたらあるかもしれません。けれども、日本の社会は、これから木材というものをさらに意識して使っていかなければいけない時代になってきているんですね。10年、20年、そして、50年という時を経て生長した木が、このカリキュラムでみなさんの手元にきたわけです。みなさんがつくった作品は、まだ白っぽい色味をしていますが、これからさらに5年、10年という年月を経て味わい深くなっていきます。それを見て、そういえばあのときにこういうことをやったなとか、あのときと比べたら、今の自分は少し成長したかなとか、そういう記憶を蘇らせるときがあって欲しいと思います。このカリキュラムで得たことを思い出して、“とうきょうの木”についてまた考えるきっかけにつながり、木の生長とともに自分も成長していることを実感してもらえたらと願っています」。

丸茂みゆき先生

次回は、“とうきょうの木”で制作した作品をリビングデザインセンターOZONEで
展示した模様をお伝えする予定です。