MASTER'S VOICEつくり手の声
Case.5
Wood Factory 理事・施設長
加藤圭介
木製の小物製作を通じて
“やりたい”が叶う木工作業所
八王子市にある「Wood Factory」は、一般の就業が困難な方のための障害福祉サービス・就労継続支援B型の木工作業所。こちらでは、東京の多摩地域の森林で育った認証材「とうきょうの木」を使用した木工製品を数多く手掛けている。「とうきょうの木」を使うことの意義、そして、木工作業所の在り方について、Wood Factoryの理事で施設長を務める加藤圭介さんにお話を伺いました。
みんなで技術を磨いてきたから、難しい作業ほど人気が高い
Wood Factoryを立ち上げるまでの約20年間、福祉作業所で働いていた加藤圭介さんは、企業から信頼される木工製品づくりを模索しながら地道に成果を積み重ね、施設利用者の工賃のベースアップなどを実現してきた。そして、自らが思い描く木工作業所を形にするために、以前から交友のあった“木の総合窓口”である一般社団法人kitokitoに働きかけ、2022年10月にWood Factoryを立ち上げるに至った。
加藤さん:いい仕事をしたら、それに見合った対価を得たいと考えるのは、誰しも同じはず。それなのに、なぜ、福祉作業所の工賃は、一般企業の10分の1程度なのだろうと、ずっと疑問に感じていました。
作業所の利用者さんたちは、みんな一生懸命に取り組んでいるのに、「このくらいしかできないだろう」という決めつけによって能力を出しきれずにいたり、魅力ある製品づくりがなかなか実現せずに工賃が低いままだったり。
そういった環境を変えていきたいという思いをずっと持ち続けていました。
以前に働いていた福祉作業所で培ったノウハウや人脈を活かし、Wood Factoryでは企業からの依頼を受けて、主に「とうきょうの木」を使用した木製のコースターや栞、鉛筆などの木工小物を製作。現在は、利用者の定員いっぱいの29名が在籍し、1日20名程度が作業をしている。
加藤さん:1階ではヤスリでの仕上げなど木屑の出る作業、2階では組み立てや袋詰めなどの作業をメインに、1日に3〜5種類ほどの木工製品を手掛けています。
その日のメンバーに合わせて作業する内容を決めていますが、「あなたはこれね」と一方的に押し付けることはせず、「この作業をやりたい!」という意志をできるだけ活かすようにしています。
人気の作業は仕上げのヤスリがけで、難易度が高いほど「やりたい!」と手を挙げる人も多いんです。簡単な作業だと思うかもしれませんが、柔らかい材質のヒノキは削りすぎてもダメで、絶妙な力加減と削り具合が求められます。もちろん、最初からうまくできたわけではなく、1日の目標を決めてみんなで達成感を味わったり、時にはゲームのように競い合うなどして楽しみながら、一人ひとりが技術を磨いていきました。
地元の木が木工小物になる。その物語がモチベーションを高める
Wood Factoryでは、その人の能力を最大限に活かすことをモットーとしている。例えば、木の柾目と板目をチェックしてレーザー加工機にセットし、型を抜いたり、文字を刻印したりといった難しい作業も、できる利用者がいる日はその人に任せている。
その一方で、材料となる木の切り出し作業やデザイン面では、プロの手を借りる。自分たちですべて抱え込まないことで作業効率が上がり、Wood Factoryが大切にしているクオリティも高まるからだ。今では、60社以上の企業と付き合いがあり、受注するアイテム数は年々増加する一方。作業所は、毎日フル稼働だ。
加藤さん:SDGsによる自然素材への意識の高まりは、私たちにとっては追い風です。ここで使っている木材の8割ほどが多摩地域で育った「とうきょうの木」ですが、企業からも「とうきょうの木で作ってくださいね」とオーダーいただくことが本当に多いんです。
それは私たちにとってもありがたいことで、利用者さんに「地元で育った木をメダルに加工して、こういうイベントで配るんだよ」と、受注した木工製品の背景にあるストーリーを伝えることができ、それが、意欲的に作業に取り組むモチベーションにもなっています。
木材の調達から、木工作業には適さなくなった木材の再利用まで、Wood FactoryではSDGsの取り組みが自然と行われている。
加藤さん:木は捨てるところがないとよく言いますが、本当にその通りです。私たちの作業所が八王子にあるので、多摩地域でお付き合いのある材木屋さんから「伐採で枝がたくさん出るから、引き取りに来てくれたら持っていっていいよ」と声をかけていただくこともあります。材料費が抑えられれば、その分、工賃に反映できるので、お声がかかったらありがたく車を走らせます。また、私たちの作業所で木工製品に使えない大きさになった木材などは、薪にして近隣のキャンプ場に譲るようにしています。最後は灰になるまで使い切る。ここでは、無理なくSDGsが実践できています。
東京の森林がつなぐさまざまな縁に支えられながら、Wood Factoryでは今日も木製の小物が次々と生み出されている。
加藤さん:私たちが手がけているのは木製の小物で、材料として「とうきょうの木」を大量に消費するわけではありません。でも、人の手を必要とし、手間もかかる小物製作は、私たちのような作業所こそが得意なこと。数百個〜数千個という発注にも臨機応変に対応ができます。
小さな木工作業所ではあるけれど、多摩地域の森林を循環させる小さな歯車の一部であるという自負もあります。だからこそ、もっと多くの人に「とうきょうの木」から作られた木工製品のことを知っていただけるよう、私たちもがんばって活動していこうと思っています。
Wood Factoryでコツコツと丁寧に作られた木工製品の一部は、以下のオンラインショップや店舗などで購入が可能だ。
- 「森暮ら商店」
- 「KURUMIRU」(都庁店、錦糸町マルイ店、伊勢丹立川店)
- 「KURUMIRU ONLINE SHOP」