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MASTER'S VOICEつくり手の声Review

Case.3

相羽建設株式会社 代表取締役
相羽健太郎

「地方創生、地域創生と口を揃えるけれど、地域材利用ほど地域貢献になることはない。地元の林業者や製材所、大工の仕事を守るのは地域材」と、相羽建設株式会社代表取締役の相羽健太郎さんは強く語ります。

今回は相羽さんに自社の住宅事業の柱となる規格型住宅にとうきょうの木を使い続ける意義と想いについてお話を伺いました。

「とうきょうの木」との出会い

とうきょうの木で家をつくることにした
先代社長の大きな事業転換

今から25年前の私が入社した頃に、養父である先代社長が「東京の家なのだからとうきょうの木を使うべき」と切り替えました。当時は国産木材の自給率が20%を切ろうとしていた時代です。思いきりましたね(笑)。先代は大工出身だったこともあり、伐期を迎えても伐られず鬱蒼としている多摩の森を見て、忸怩たる思いを抱いていたのではないでしょうか。

地元東村山市で大規模開発「むさしのiタウン」の施工を受託。とうきょうの木を使う

やがてこの事業転換が実を結びます。15年前(平成20年)に地元東村山市の都営住宅跡地で全280戸の大規模開発がありました。この「むさしのiタウン」で当社は25棟の施工を受託し、とうきょうの木を使った規模感のある街並みができました。当時のとうきょうの木は流通量が少なく構造材を揃えるのに苦労しましたが、関係各社の尽力によって実現しました。

とうきょうの木の無垢材を構造材に採用した
規格型住宅「木造ドミノ住宅」

このむさしのiタウンに採用した規格型住宅が現在も主力商品となっている「木造ドミノ住宅」です。大黒柱・外周壁・床面の強度を上げた強い箱のような構造(スケルトン)で、内装や設備(インフィル)をライフスタイルや家族数の変化に応じて変えられる仕組みになっています。永く住んでいただける家づくりを想う中で生まれました。

この木造ドミノ住宅の構造材(柱・梁など)に採用しているのがとうきょうの木の無垢材です。もちろん外国産材の集成材を使っても構造的に問題はありません。しかし末永く住まわれる家において、地域材の無垢材が大黒柱として目に見えるのはとても魅力的なこと。暮らしのシンボルであり、やがてお子さんやお孫さんに語り継がれる
家を建てるなら愛着といった感情を大切にすべきと私たちは考えています。合理性だけでは愛着が生まれません。この情緒的な価値をお客様と共有できると、本来やらなければならない森林循環のようなもっと大きな合理的価値が動き出します。無垢材の構造材は多くが大径木からつくられます。大径木の利用は国産木材の大きな課題ではないですか。

お客様と情緒的な価値を共有する
「山のバス見学会」

この情緒的な価値をお客様と共有するために、私たちは定期的に「山のバス見学会」を開催しています。始めたのはむさしのiタウンの時からです。伐ったばかりの木からは水が溢れます。匂いも強い。生きている。こうした経験から先人たちが一生懸命植え育てた木を実感してもらうんです。大黒柱に愛着や敬意といった感情が芽生えることは、永く住んでいただく重要なポイントだと考えています。

「多摩産材をはじめとする国産木材を使った家づくり」コンクールで優秀賞を受賞

最近では令和3年に、東京都の「多摩産材をはじめとする国産木材を使った家づくり」コンクールにおいて、木造ドミノ住宅の工法を採用した「アプローチと庭で母屋とつながる家」が優秀賞を受賞しました。
こちらのコンクールでは全3回の開催でいずれも賞をいただいています。受賞が直接売上に反映されることはありませんが、私たちが会社経営で大切にしているインナープロモーション(社内広報)には大きく寄与しています。
社員が自社のものづくりに誇りを持ち業績に詳しくなることが、自社の信用ある評価をつくりだしていくでしょう。

東京都の補助制度の利用

都内で戸建てを建てる際の耳寄りな情報

東京都内で戸建てをつくる場合、いくつかの条件を満たせば2つの補助制度を利用できる可能性があります。
1つは「東京ゼロエミ住宅」です。高い断熱性能の断熱材や窓を用いたり、省エネ性能の高い照明やエアコンなどを採用した環境に優しい住宅へ交付されます。戸建住宅なら最大210万円、太陽光発電装置や蓄電池などを導入することで、さらに金額を上乗せして補助を受けられます。

出典:東京都環境局
東京ゼロエミ住宅の概要図(東京都)
         

2つ目はこの東京ゼロエミ住宅を取得した上で、さらにとうきょうの木を4m3以上使用すると「木材利用ポイント」がもらえます。ポイントは家具や東京都の特産品・工芸品と交換できます。
去年、木材利用ポイントを交付された私どものお客さまは家族4人分の国産木材製のスツールと交換されたそうです。
当社のドミノ住宅の場合、とうきょうの木を4m3以上利用することがほとんどなので、そこから東京ゼロエミ住宅の断熱性能や省エネ性能を追加すれば2つの補助制度を利用することができるでしょう。

非住宅分野への進出

地域材が地方創生の一役を担う

日本は少子高齢化が一段と進んでいます。現在、新築住宅の売上は全体の50%ほど。ついこの前まで新築しか請け負わなかったのが嘘のようです。
そして残りの50%をリノベーションと非住宅が分け合っています。近年は企業や団体において、木造や木質化はとても関心が高いです。
私たちが携わった非住宅分野の一つに公益財団法人大学セミナーハウスの食堂棟「DiningHallやまゆり」があります。

photo:北田英治

セミナーハウスは八王子市にあるのだから多摩の森の木材を使うべきとご提案したところ、採択されました。理事会の皆さまは以前から地域貢献の必要性を認識されていたようです。
こちらの建物はとうきょうの木を使用し、地域の職人さんたちと一緒につくりました。建物が永く使い続けてもらえるように、伝統的な木造技術を用いて職人さんたちがメンテナンスできることを設計の念頭に入れてあります。
以前の食堂棟の利用者は学生たちでしたが、オープン後は地域にも開かれたところとなり、眺めの良いちょっとした名所となって社会人や地域の方にも利用されるようになったそうです。
地域材利用が地域創生に一役立てると実感した案件でした。

photo:北田英治

今後、地域材利用において期待がかかる非住宅分野

年々、非住宅分野の引き合いが多くなっています。SDGsといった環境に関する取り組みは企業や団体の方が個人よりも積極的といえるでしょう。
地域材を使ったオフィスや公共建築は、地域の資産になるとともに、地域経済を動かすチカラになります。外国産材や鉄骨、鉄筋コンクリートを使用するだけではそうはいきません。
もちろんオフィスをすべて木で構える必要はありません。部分的にあらわしで使ったり、什器として使用するなど、木の加工のしやすさを最大限に活かして、ビジネスシーンが木質化されていくことを期待したいです。地域の木材がもっと身近になることで、林業者や製材所、大工の仕事が再び見直されていくことでしょう。