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MASTER'S VOICEつくり手の声Review

Case.2

一級建築士池田浩和

岡庭建設株式会社 専務取締役
一般社団法人JBN・全国工務店協会 副会長
一般社団法人東京家づくり工務店の会 理事
東京都地域住宅生産者協議会 顧問

地域材の利用促進の担い手として地元工務店の存在は欠かせません。住宅、とくに戸建住宅はたくさん木材を使います。東京都西東京市に本社のある岡庭建設株式会社は、とうきょうの木を使用した注文住宅を建てる工務店のひとつ。同社の住まいづくりのリーダーとして、また各工務店協会の役員を務めながらとうきょうの木の家を数多く手掛けてきた池田浩和(いけだ・ひろかず)さんに、今、東京でとうきょうの木の家を建てる意義についてお話を伺いました。

省エネ化だけではなく、
とうきょうの木を使って脱炭素社会を前進させる住まいづくり

東京ゼロエミ住宅の省エネ性能を
標準仕様にした消費エネルギーの少ない住まい

全国に先駆けて東京都では、高い断熱性能を持つ断熱材や窓を用いたり、省エネ性能の高い照明やエアコンなどを取り入れた、人にも環境にも優しい住宅「東京ゼロエミ住宅」を建築した建築主に対して助成を行っています。

私たちはこの助成制度の開始当初から、東京ゼロエミ住宅の省エネ性能を標準仕様として住まいづくりを行っています。

脱炭素化をさらに進めるために
地域材を使った木の家が重要

東京ゼロエミ住宅は仕様がわかりやすく示された画期的な制度ですが、脱炭素化を進めるには、伐採後の植林がきちんと行われ、輸送時も排出量が少ないとうきょうの木のような地域材を率先して利用することも重要だと思います。

社員の3分の1を大工が占める我が社は木の家づくりが本業です。このことに向き合って木材調達を見直した結果、十数年前に外国産材から多摩や秩父の地域材にシフトすることができました。

木を大切に扱う人を育てるために
社員全員で伐採・木材加工現場を見学

とはいえ地域材を使った木の家を謳っても、ほとんどのお客様は木材がホームセンターのような売場に並んでいるものだと思っているでしょう。自分の住まいの材料となる木材が、大切に植え、育てられて、何十年後かに伐り出されていることを知ってもらいたい。お客様や住宅を建てるうちの社員には、木を大切に扱う人になっていただきたいんです。

そこで数ヶ月前に社員全員で伐採・木材加工現場の見学に行きました。とても有意義な社員研修となりました。このエピソードはYoutubeチャンネルに公開しているのでぜひご覧ください。場所は秩父ですが製材工場ではとうきょうの木もたくさん扱っています。

多摩産材を使った家づくりコンクールで優秀賞受賞

地域材を使うなら構造計算が重要

平成30年度の多摩産材を使った家づくりコンクールで、2016年3月に竣工した「みはらしだいの家 」が優秀賞を受賞しました。

この家は構造材にとうきょうの木のスギ材を使用しています。一般的なスギ材は柔らかく内装材利用へは利点ですが、構造材としての強度はけっして高くありません。ただ、強度が足りなければ耐えられる太さや本数にすればいいだけの話なんです。僕らはかなり前から木造住宅に許容応力度計算(構造計算)を採用してスギ材一本一本の太さや本数を決めながらとうきょうの木を建築材に使用しています。

現行法では木造平屋や2階建ての構造計算は義務化されていませんが、地域材を構造に使う場合は許容応力度計算を行って耐震等級を取得するのが重要だと考えています。みはらしだいの家は許容応力度計算を採用し、耐震等級3を取得しています。

熊本地震の現地で痛感した耐震等級3へのこだわり

余談ですが、みはらしだいの家が竣工した翌月に熊本地震がありました。僕らは団体の役員でもある関係でいち早く現地入りし、現地の工務店の手掛ける木造仮設住宅等を視察しました。

現地では住宅の多くは2回目の震度7の本震で倒壊していました。1回目は耐えても2回目で全壊、倒壊してしまったんです。

住宅に携わる者として目にすることの少ない被害状況でしたが、現地の工務店仲間が建てた耐震等級3の家は無傷もしくは損傷で済んでいました。大規模な余震を想定すれば耐震性には余力が重要だと痛感した出来事でした。東京へ帰るとすぐに我が社の標準設計を耐震等級2から3へ格上げすることを決めました。

等級 特徴
耐震等級1 数百年に1度程度発生する地震力に
対して倒壊・崩壊しない程度
耐震等級2 数百年に1度程度発生する地震力の1.25倍に
対して倒壊・崩壊しない程度
耐震等級3 数百年に1度程度発生する地震力の1.5倍に
対して倒壊・崩壊しない程度

高齢化社会の住まいのかたち半平屋の木の家

みはらしだいの家は高齢のご家族と同居する2世帯暮らしの家です。お客様の意向も含め、建物高さが低くて建ぺい率と容積率にゆとりがあることも活かし半平屋の住まいとなりました。はじめは平屋がよいというお話もありましたが、プライバシーと見守りを両立させるため、階高の低い2階を設け、吹き抜けを介した程よい距離感を形成しています。我が社には技術の高い大工が多いため、棚や腰かけなどご家族の体の大きさに合わせてきめ細かく造作し、木のぬくもりを感じられるようにヌカ塗装で仕上げました。

高齢化社会の住まいかたちとして、平屋や半平屋の木の家は今後とも一定のニーズがあると思われます。

東京でとうきょうの木の家を建てること

建築系の代表として花粉の少ない森づくり運動に参画

数年前から東京都の「花粉の少ない森づくり運動」推進委員会の委員を務めています。

花粉の少ない森づくりとは、利用期を迎え、花粉を多く飛散するスギやヒノキを伐採し、花粉の少ないスギ等に植え替えるというものです。

住宅分野でも、利用期を迎えた木材を積極的に活用することで、花粉の少ない森づくりに貢献することができます。これは利用期を迎えた木をちゃんと使って、植えて、育てるという森林の循環を促すことにも繋がる。それをちゃんと理解して、とうきょうの木を使う工務店がもっと増えると良いですね。

東京でとうきょうの木の家を建てる意義とは

このように東京都内でとうきょうの木を使って家を建てることで、脱炭素社会や花粉の少ない森づくりに少なからず貢献できます。またそれと同時に、木に関心を持ち、木を使う人を増やすことも重要だと思っています。

それは我が社の社員をはじめとした木を「使う」人だけでなく、木を「利用する」お客様も一緒です。とうきょうの木や国産木材を使った住宅が当たり前になる社会をつくっていきたいです。