学校連携とうきょうの木 学び場プロジェクト
第2回は、帝国器材の製造現場見学をはじめ、
曲木体験やアイデア検討、作品制作の様子、
学校法人桑沢学園 東京造形大学 室内建築専攻領域の
長岡勉准教授のインタビューをお届けします。
帝国器材を見学

帝国器材の企画開発部課長代理の中野喬介さん。
目の前に積まれているのは、乾燥・製材された木材。
7月、家具や建具などの企画設計・製造・施工・販売まで手がけるメーカーで約90年の歴史をもつ帝国器材を見学しました。国産材や地域材を積極的に活用し、森の保全にも取り組んでいます。木材がどのように製材・加工されるのか、工場の流れを見せていただきました。

帝国器材の取り組みを説明する、営業二部の阿部重和さん。

帝国器材の「KINOCCOプロジェクト」の冊子。
地域材を活用した学校などの木造建築の推進に
取り組んでいる。

工場内を見学。
製品の用途に応じて、
木材から最適な部分を選んで加工する。

反りやゆがみを補正し、
平滑な状態に仕上げる作業を職人が丹念に行う。

死節・抜け節がある場合は、埋木(うめき)と呼ばれる
木製の部材で埋めて表面を平らにする。

ショールームに飾られている丸太の重みを体験。
曲木体験

工房での体験を経て、たくさんの曲木が完成しました。
8月には、東京造形大学の工房で作品制作に必要とされる角材のカットや旋盤加工、曲木の技法などを学ぶ体験をしました。学生たちは、大学の基礎課程でこれらの工程をひと通り経験していたので、スムーズに作業を進めることができました。

工房運営課の大野将章さんから、
曲木体験の前に木の性質を教わる。

太い角材を機械で一本ずつ丁寧にカットする。


曲木をつくるにはかなり力が必要なため、
3人で1組で型に沿ってゆっくり曲げていく。

工房運営課の高吉志一さん(右)の指導のもと、
木材を蒸し器に入れて繊維を蒸気や熱で柔らかくする。

旋盤の機械を使って、丸みのある形をつくる技術に挑戦。
試作検討会

東京造形大学の教室に集まり、
数回にわたって検討会が行われました。
9月から10月にかけて、作品づくりにあたり、スケッチや模型、CGで構想を練って検討を重ねました。 “とうきょうの木”の魅力を引き出す作品をつくるために、酒匂先生と長岡先生のアドバイスを受けながら、ブラッシュアップを図ります。


木の特性を考えながら、制作方法のアドバイスを受ける。


縮小模型を用いて、
人と作品の関係性やサイズ感を検討する。


木の特性を考えながら、制作方法のアドバイスを受ける。


自分たちがめざすコンセプトやかたちをめざして、
微調整を加えていく。
制作過程

手前に並んでいるのは、制作中の学生たちの作品。
10月下旬、“とうきょうの木”を使った作品制作は大詰めを迎えています。大学の工房で酒匂先生や長岡先生に相談しながら、各自が多様な木工機械を使って制作に取り組みます。


大学の工房には、サンダー(ヤスリ)や旋盤など、
多様な機材が揃う。

切り終えた部材から、次は組み立て方を考える。


木工体験で学んだ技術を生かして作品制作を進める。

工房運営課の大野さんからカンナのかけ方を教わる。
作品制作に向けて

木の「ぬくもり」をテーマにした作品制作に対する思いや意気込みを語っていただきました。
建物や家具、公共の場など、生活の身近なところで地元の木を使うことは、地域への親しみや誇りをもつきっかけにもなると思います。私は、木のぬくもりや安らぎが感じられる作品をつくりたいと考えています。


見学や体験のなかで、木材に触れることで自然と木育につながったり、木の温かみが感じられる空間が印象に残りました。そんなふうに作品に触れて木のぬくもりを体験してもらえる作品をつくりたいと考えています。


“とうきょうの木”の可能性を感じられるような作品をつくり、その価値を広く伝えることが重要だと考えています。僕は照明の光によって、温かみのある木の魅力がより引き出される作品を構想しています。


“とうきょうの木”を活用することで、その存在を知ってもらい、実際に使ってもらう足がかりになればと考えています。本と木の組み合わせから発想して、木に囲まれて本を読むための家具を考えています。


見学や体験で“とうきょうの木”に実際に触れて一番印象に残ったのは、木のぬくもりでした。私はぬいぐるみのように木を抱きしめることで、その温かみや香りが感じられる作品を考えています。

TOKYO MOKUNAVI のショールームで、みんなで木馬に乗って揺れる体験をしたことが一番心に残っています。そのときの楽しい記憶と、回転するコマをモチーフに発想したスツールを考えています。


見学や体験を通して、現代人が遠ざかってしまった自然とのつながりを取り戻すうえでも、木のぬくもりに触れる機会はとても重要だと感じました。僕は、木のぬくもりを感じながら、読書するための家具を考えています。


これまでの見学や体験を通じて、一貫して感じたことは木に触れて遊ぶ楽しさでした。今回つくる作品でも、木に触れて動かして楽しむ体験ができるおもちゃのようなものをつくりたいと考えています。


地球温暖化、SDGsなど、世界規模で木材利用を推奨する時代のなかで、まず身近な“とうきょうの木”を知ろう。そう思ってもらえるきっかけの手助けをしたいと考えています。僕はスギの木目の美しさを生かしたスツールを考えています。



木材加工の過程を見学して、“とうきょうの木”がどのように活用されているのかを学ぶことができました。僕は花束のように木を束ねて、複数の木口の年輪の温かみを生かした、人と語らうような家具を考えています。


プロジェクトを通して、木材がどのような工程を経て、われわれの身の回りにある製品に変わっていくのかを知ることができました。僕は木口の年輪の面白さが伝わるような、線材を組んで重ねた作品を考えています。


普段は製材された木に触れることが多いなかで、その裏にある多様な工程や工夫を知り、木材の魅力をよりリアルに感じることができました。僕は、時間を重ねた木そのものの力強さや温かみを作品にどう表現できるか構想しています。


“とうきょうの木”の未来のために
自分たちに何ができるかを考えてほしい
学校法人桑沢学園 東京造形大学
造形学部 デザイン学科
室内建築専攻領域長岡 勉准教授
今回のプロジェクトのなかで、私が一番印象に残ったのは、個性豊かな木々が圧倒的な物量で横たわっている原木市場の光景でした。私たちの暮らしのすぐそばに森林があるにもかかわらず、その現状を目にする機会は多くありません。けれども、少し足を伸ばすだけで訪れることのできる森林を実際に見て、体験することができれば、私たちの暮らしと森林の樹木とのつながりを、より身近に感じられるようになるはずです。
こうした原木は、その後、製材所で加工されて木材となり、さらに手を加えることで建築材料や家具へと形を変えていきます。学生たちには、この一連のプロセスを体験したなかで得たリアリティをもとに、“とうきょうの木”の未来のために自分たちに何ができるのかを考えてもらいたいと思っています。
東京造形大学には豊富な機材が揃う木工房があるので、学生たちにはまず板を挽くところから取り組んでもらいます。頭だけでなく手を動かし、素材に触れ、その感触を大切にしながらかたちにしていってほしいと願っています。
次回は、多摩市立中央図書館、TOKYO MOKUNAVI、リビングデザインセンターOZONE 6階 パークスクエアでの展示の様子をお伝えする予定です。
