学校連携とうきょうの木 学び場プロジェクト
本プロジェクトは、MOKUNAVIが都内の学校と連携して、
“とうきょうの木”を多くの人に知ってもらうことを目的としています。
2024年度は文化学園大学 造形学部 建築・インテリア学科との取り組みである
『東京の木”多摩産材”を知る・触れる・広げるプロジェクト』を取材します。
文化学園大学に提供された“とうきょうの木”を通じて、学生の学びと制作を支援し、
作品の展示発表の場を提供することで、“とうきょうの木”を一般に公開していきます。
先生や学生へのインタビュー、授業風景、作品展示の様子などを
3回にわたってレポートします。
第1回は、文化学園大学建築・インテリア学科教授の丸茂みゆき先生に、
取り組みについてお話を伺いました。
文化学園大学 造形学部 建築・インテリア学科 教授丸茂みゆき先生
これからを担う若い世代に向けて
東京・新宿にある文化学園大学建築・インテリア学科インテリアデザインコースでは、実は2010年から“とうきょうの木”を使った地域連携型教育事業に取り組んでいます。同大学がその事業を始めたのは、建築・インテリア学科教授の丸茂みゆき先生が東京・あきる野市の中嶋材木店代表の中嶋博幸さんを知人から紹介されたことがきっかけでした。
丸茂先生は、当時を振り返ってこう語ります。「中嶋さんから、安価な外国産材に押されて国産材の需要が減少している問題についてお聞きしました。これからの社会を担う学生に“とうきょうの木”を知ってもらい、多摩エリアの林業従事者の皆さんに元気を与えるような取り組みを一緒に考えていただけませんか、と相談を受けたのです。私たちも学生が社会につながるいい機会だと考え、大学の地域連携型教育事業の一環として演習授業のカリキュラムを設けることにしました」。
授業のために素材サンプルの提供をはじめ、原木市場や製材所の見学、木材産業や“とうきょうの木”の特性について解説する学びの部分のサポートなども受けられることになったので、丸茂先生はほかの教員とも相談して、それらをカリキュラムに取り入れ、素材サンプルを使って家具やインテリア小物をつくる演習授業を考えました。そして、“とうきょうの木”を通して、卒業後に建築インテリア業界に進む学生が木材産業や地産地消についての知識や理解を深めることを目標に掲げたのです。
このように文化学園大学建築・インテリア学科が地域連携型教育事業として大切に取り組んできたこととその想いをもとに、2024年度からはMOKUNAVIから材料や展示会場提供などを行う学校連携 とうきょうの木 学び場プロジェクトとして、新たなスタートをきりました。
2024年度の新たなカリキュラムがスタート
2024年度は55名の4年生が参加しています。4月には、“とうきょうの木”と他県の木との比較、企業の取り組みについてレポートを作成。5月初旬には、MOKUNAVIをはじめ、多摩エリアの原木市場や製材所、“とうきょうの木”を使用した公共施設などを見学しました。特に多摩の原木市場に訪れた際には、バスで1時間ほどの東京にこんなに豊かな自然があるということを知って、みな驚きの表情を見せます。
「山から木を切り出して運び、皮をはいで製材して乾燥させて、含水率を測って規定値に満たなければ、再び乾燥させるなど、山の木から製品に至るまでに、こんなにも多くの人の手がかかるということを、言葉だけでなく、実際に現地で見て体感することは、学生たちにとって貴重な機会になると思います」と丸茂先生は言います。
原木市場などの見学体験や、多摩の秋川木材協同組合の方々のレクチャーから得た知識や学びをもとに、2人1組のチームで“とうきょうの木”を使った作品のアイデアを練ります。プロジェクトの指導を担当する丸茂先生をはじめ、准教授の曽根里子先生や非常勤講師の菊池光義先生に質問しながら、学生たちはアイデアを昇華させていきました。
“とうきょうの木”を使った加工体験
6月初旬には、各々の作品制作に必要な技術を習得するために、大学の作業室で木材加工を体験しました。“とうきょうの木”の香りや触感を体験することから始まり、電動工具で板材をカットし、それらをダボやビスケットと呼ばれる木質部材とボンドで継ぎ、ヤスリをかけて仕上げていきます。ものづくり体験が初めてという学生も多く、工具の扱いに戸惑ったり、杉材は柔らかいのでヤスリをかけているうちに割れてしまったりすることも。
「削り過ぎてしまったら、別の木で埋めることができるよとか、割れてしまっても、それもデザインの一部に取り入れてみたらと、先生たちがそばにいてアドバイスをするようにしています」と丸茂先生。また、20センチ角の板材にヤスリをかけたものを各々が家に持ち帰り、枕元に置いて香りを楽しんだり、お風呂に浮かべて沈むか実験してみたり、“とうきょうの木”を生活の中でも体験してもらいました。
手入れがされることで美しい材になる
このカリキュラムにあたり、丸茂先生は毎年、学生の参考になるような見本作品を制作しています。“とうきょうの木”に触れてつくった自身の感想をこう述べます。
「提供いただいた“とうきょうの木”の杉は、とてもきれいな桃色をしていて、木目が生き生きとして、節の表情が面白いのが特徴です。それは定期的に間伐などの手入れがきちんとなされているからだそうです。手入れがあまりなされず、伐採の頻度が低いと山は荒廃し、それによって花粉症の原因や、切り倒して放置されていた木が土砂災害で流されて二次災害を起こすこともあり、問題になっているそうです」。
本来は、木を育て、それを木材として使い、その収益を次の木の育成費用にあてるというシステムが循環することが大切であり、そのためにも“とうきょうの木”のような山の木の積極的な活用が求められています。
「時」を感じることについて考える
現在、サステナブルな社会の実現に向けて、木材自給率アップ、SDGs(持続可能な開発目標)、2050年までのカーボンニュートラル達成という、さまざまな課題があります。そのなかで、これからの社会を担う学生に対して、“とうきょうの木”を通して丸茂先生はどのような話をしているのでしょうか。カリキュラムでは最初に、「時」についての話をされたそうです。
「木材自給率などについてももちろん話をしますが、私はまず年月について話をします。例えば、木を植えて10年、20年では使えず、何十年と経ってからようやく使うことができ、ものをつくることができます。木目の模様は、その木が生きてきた年月を表していて、また年月を重ねることによって味わい深い色に変化していくんですよ、という話をしました。その年月という言葉に物語を感じる学生もいて、過去の授業では子どもの成長とともに木の経年変化を楽しむ家具をつくることを考えた学生もいました。同じように長い年月を経てつくられる鍾乳洞を木で再現した力作をつくった学生もいました。最初から壮大な難しい問題を考えるのではなく、入り口は年月という、『時』を感じることへの興味から入り、やがて彼らが自身で地球環境や未来に想像をふくらませていくことができれば」と、丸茂先生は思いを語ります。
自分の未来に想像をめぐらせる
この“とうきょうの木”のプロジェクトをきっかけに、学生たちがこれから進んでいく建築インテリア業界の今後について、きちんと考えられる人材に育っていくことを、丸茂先生は願っています。「授業の最初と最後に必ず、このプロジェクトでの経験は、のちにあなたたちの糧になるでしょうといいます。学生たちは、今はまだその価値に気づいていないかもしれませんが、社会に出てから、そういう仕事に就いたときに少しでも思い返してくれたらと思っています」。
15年もの歳月のなかで、丸茂先生は“とうきょうの木”をもとに自然環境と学生の未来のために取り組んできました。日本の山地とこの取り組みが有機的につながっていくことをめざして、プロジェクトは今後も続いていきます。
次回は、学生の方々にこのカリキュラムの体験で感じたことや作品のアイデア、
“とうきょうの木”についてなど、彼らの考えをお聞きする予定です。